本年度はまず、本研究の最も重要な中心となる、デュフレノワの『絵画の芸術〔技〕について』(1688年)の前半部分を、正確に文献実証的に読解した。そのため、古典的な修辞学やルネサンス絵画論の伝統を適宜参照しつつ、ラテン語テクストを翻訳した上で、その美学的な重要性をつぶさにたどった。同時に、そこに付けられたド・ピールの翻訳・注解を詳しく吟味し、翻訳における大幅な意味の変更や、とりわけド・ピールにおける色彩派的な傾きを検証した。 次に、デュフレノワに対する各国語による翻訳・注解を研究した。具体的には、ド・ピール、ドライデン、ウイルズ、メイスン/レノルズ、ルヌーによるものの研究を行い、各時代・各国の特徴を浮き彫りした。特に、ウイルズには、イギリス産業革命前夜の商業主義と国粋主義が、フランス古典主義絵画理論の注釈であるにもかかわらず看取できたし、またメイスンやレノルズには、いっそう芸術の自律性に向かう方向性を確認できた。また十九世紀にはフランスでもいわば逆輸入されるレノルズの注解には、彼の『美術講義』(これは仏訳もされ、フランスでも影響をもった)ときわめて親近的な数多くの重要な主張が含まれことが剔抉された。さらにそのため、イギリス大英図書館で、デュフレノワのテクスト、およびド・ピールの翻訳・注解の諸版、さらに他の仏訳と注解の調査研究を行った。その結果、フランス革命前夜にも、この絵画論の翻訳がアカデミーで朗読されるなど、デュフレノワの根強い影響を浮き彫りにすることができた。そして、研究計画の当初には把握していなかった、ケラトリーやラビニー=ボールガールの翻訳・注解を研究することが出来、その結果、古典主義絵画理論のきわめて持続的な影響を解明すると同時に、デュフレノワが、類似の絵画論の中でも突出する地位を占めることが明らかにされた。
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