初年度にあたる今年度は主として神聖ローマ帝国圏内における聖遺物顕示(聖遺物展観)に関連する記念印刷物と記念品についての情報および各種資料の収集に努めた。一部地域については集積した情報に基づいて、実際の展観行事の再構成を試みるとともに、聖遺物顕示カタログの具体的な分析、翻訳作業およびデータ入力を行なった。各種情報を収集することのできた記念印刷物としてはアーヘン、ニュルンベルク、ヴィッテンベルク、バンベルク、ヴュルツブルク、ハル、ハッレなどの展観行事関連のものが挙げられる。これらについては稀少な原史料を入手することの出来たアンデクス修道院の事例とともに、順次分析を行なった。今年度とりわけ調査が進展したのはアーヘン、ニュルンベルク、ヴィッテンベルク、ハッレの聖遺物カタログについてであるが、中でもアーヘンについては展観記念版画と記念バッジについての論文をまとめ得た。その具体的成果としては聖遺物カタログの源流としての記念バッジの重要性を指摘するとともに、各地の聖遺物カタログには一枚刷り木版画と冊子体があり、それらが相互に造形上の影響を与えあっていた可能性を浮かび上がらせることが出来た。目下アーヘンに関して得られた知見を、それ以外の各所での事例と比較しつつ、聖遺物カタログについて総合的な考察を展開しているところである。今年度はさらにオータン及びパリ等において調査を行なう機会も得て、聖遺物の安置場所についての歴史的変遷の確認が、聖遺物顕示という儀式の成立事情を解明する上で、また教会建築やその装飾と聖遺物顕示との密接な関わりを証明する上で、極めて重要であることを確認できた。これら今年度の調査・研究によって得られた知見については、次年度に論文発表する予定で、現在作業を続けている。
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