今年度も、引き続き聖遺物展観およびその関連図像、印刷物等についての文献・画像資料の収集およびそれらの調査研究を遂行したが、年度前半においては、前年度の京都大学におけるシンポジウムでの口頭発表に基づく英語論文と、またニュルンベルク、ロレンツ教会所在の特殊な聖遣物顕示機能を持つヨハネ祭壇衝立についての邦文論文を上梓した。これに並行してデューラー作の二皇帝像の特異性を聖遺物顕示の文脈から解明しようとする論考を発表した。11月には、ドレスデンのザクセン州立図書館およびミュンヘンのバイエルン州立図書館等において、聖遺物カタログ関連諸原史料の調査を行なうとともに、ハッレを再訪し、アルブレヒト・フォン・ブランデンブルクによる聖遺物顕示に関する実地調査を試みた。これらの海外滞在においては、ヴィッテンベルク聖遺物カタログの異本校合に加え、アンドレアス・マインハルディのヴィッテンベルク案内記やバンベルク聖遺物カタログ、ニュルンベルク聖遺物カタログ等について綿密な調査をすることができ、帰国後、マインハルディの対話編について、聖遺物顕示に関わる章を翻訳し、解説する論文を発表した。また2月に来日されたフィレンツェ、ドイツ美術研究所長ゲアハルト・ヴォルフ氏とは、東京大学COE「死生学研究の構築」関連のシンポジウムを通じて、聖遺物・聖画像崇敬に関する意見・情報交換を密に行なうことができ多くの示唆的な助言を得ることができたが、このシンポジウムにおける発表に基づいて、中近世において聖遺物と等価物的扱いを受けていた聖画像の我国における顕示を含む様々な機能についての日英両言語による論文を上梓した。加えて聖遺物崇敬が美術の歴史的展開に及ぼした様々な影響について論じた小著の準備も継続して行ない、翌年度中には上梓できる段階にまで至った。
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