研究課題
基盤研究(C)
平成19年度も、前年度に引き続き聖遺物展観およびその関連図像、印刷物等についての文献・画像資料の収集およびそれらの調査研究を遂行したが、とりわけ最終年度の作業として広義の聖遺物書の内、印刷本を聖遺物カタログとしてまとめ、そのカタログ部分の翻訳作業を重点的に行なうとともに、その歴史的展開について考察した。またこれまでの成果についての発表も国内外で複数回行なった。9月にはイースト・アングリア大学における世界美術研究の国際会議に招かれ、一部本研究の成果を交え、我が国における比較美術史的研究の現状と課題についての発表を行なった。秋にはバイエルン州立図書館およびニュルンベルク、ゲルマン国立博物館等において、聖遺物書に関する調査を行ない、前年度からの調査において不分明な諸点を解明した。さらに冬にかけて、国立民族学博物館と東京大学グローバルCOEにおけるシンポジウムで、本研究課題と関連する発表を行なうとともに、内外の研究者との意見交換を通じて、多くの示唆的な助言を得ることができた。バンベルク聖遺物書については、1493年刊行のハンス・マイヤー本の全文訳出を行ない、解説を伏して公刊した。また、研究成果報告書として調査しえた聖遺物書全てのカタログ部分の邦訳をまとめたが、当初の計画では、原書の写真図版に加工したものを予定していたが、図版の権利関係に不分明な点があり、成果発表を遅らせることとなった。しかしながら、なお権利関係の問題について完全にはクリアできないところがあるため、今回は翻訳テクストの訳出のみにとどめざるをえなかった。他日、当初の計画通りの、いわばヴァーチャルな邦語版聖遺物書の公刊を期したい。ともあれ、本研究の成果により、聖遺物書が展覧会カタログを先取りする要素を多々有していることが明らかとなり、美術鑑賞前史としての聖遺物顕示(展観)の重要性が明らかになったものと思われる。
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