研究概要 |
本年度の研究実績としては、まず昨年度に続き研究の基礎データとなる文献史料の収集を行った。内容は、昨年度からの継続作業である、京都に関わる近世地誌類から、仏像制作者に関わる記事を抜き出し、それをコンピュータに入力する作業に進め、新修京都叢書に収録されている『都銘所図絵」その他の文献に掲載されている関連記事の入力をほぼ終了することができた。さらに、今年度からは、『新編鎌倉志』と『鎌倉攬勝考』という鎌倉地方の地誌類における仏師に関わる情報の収集に一部着手した。次に現地調査であるが、運慶、快慶等慶派伝承作例の確認作業を京都及びその周辺で進めるとともに、1235年銘の願文が納入されていた京都(北区)・清水寺阿弥陀如来像、奈良市興福寺食堂千手観音像(主に納入品)、1242年銘の定慶作兵庫・石龕寺金剛力士像、天福年間(1233,4)の年紀のある納入品を納める広島・耕三寺阿弥陀如来像などの慶派作品や、1352年の院吉等院派仏師が関わったことを示す造像銘がある静岡・方広寺釈迦三尊像の調査を行った。なお、院派仏師については、京都・東福寺の塔頭、一華院で調査した白衣観音像も注目される存在である。すなわち、この像には、「院信法印」を作者名とする銘文があるが、これは後銘で、南北朝時代に東福寺仏殿大仏を再興造像したと伝えられる院信を仏師名として書したものとみられる。数少ない院派仏師の作者伝承に関わる遺品として注目されるが、この像は作風からすると院派仏師の手になることが想定される点も興味深い。また、海外調査としては、塑像工人、画工などの伝承と資料が遺る敦煌莫高窟を訪れ、工人関係の資料収集を行い、これらの工人達の手になる塑像及び壁画を実見した。
|