本研究課題では、日本近代洋画壇において活躍した和田英作(1874-1959)のご遺族が所蔵している日記、書簡等の調査、整理、翻刻を行い、そこから得ることのできる新知見を交えながら、和田英作の業績、および彼が関わった洋画界の動向についての検討と再評価を行うことを目指しつつ、作業・研究を進めている。 本年度は、和田英作旧蔵の日記・書簡類のコピーを作成し、そのコピーをもとに翻刻作業を行った。また、書簡類のうち、ご遺族より本年度借用したものについて一覧表を作成した。 日記のうち、特に記述が精細であり資料的価値の高い1921年8月16日〜1922年2月7日の滞欧中の日記については、翻刻を完了した。その結果、これまでほとんど論じられることのなかったこの期間の和田英作の動向が明らかになった。重要な新知見としては、次の2点が挙げられる。まず第一に、和田が滞欧中に従事していたフランスのサロンにおける日本美術品出陳のための用務の内容を知ることによって、1922年に成功を納めた日仏交換美術展覧会の開催に至るまでの準備過程のうち、その初期段階が明らかになったことである。第二に、和田がパリ訪問中の松方幸次郎と共に画廊を巡った時期の記述から、これまで謎が多いとされてきた松方コレクションの形成過程の一端を窺い知ることができる点である。例えば、現在国立西洋美術館に収蔵されている作品の購入時の様子や、松方幸次郎、矢代幸雄とともに、クロード・モネを訪問した時の様子など、特に興味深い。このほか、在パリ日本人との交友に関する記述は、当時のパリにおける日本人の活動を知る上で貴重な記録となっている。 書簡は、和文書簡のうち70通余りについて、研究補助者の協力も得ながら翻刻校訂を行った。
|