平成17年度の研究における実績は次の通りである。順次論文として発表していく予定である。 1、日本 (1)仏伝図としては、アメリカのメトロポリタン美術館に収蔵される仏伝図(絹本着色、5幅)を調査したことが最も大きな成果といえる。新出の仏伝図で、法華経絵あるいは天台宗との関連が伺われる貴重な資料である。 (2)涅槃図としては、アメリカのメトロポリタン美術館収蔵本と、フリーア美術館収蔵本を調査したことが大きな成果といえる。この2点は同系統の図像で、特にフリーア美術館本に、かつて国華誌上に掲載されたもので、この系統の図像の典型的作例といえる。 (3)その他の作例としては、密教の作例であるが、アメリカ・フリーア美術館蔵と岐阜・個人蔵の宝楼閣曼荼羅を調査したことである。宝楼閣曼荼羅は、釈迦を本尊とする曼荼羅で、密教における釈迦の位置付けがよくわかる作例である。 2、中国 (1)雲岡石窟の釈迦関係の作例を調査した。雲岡石窟第6窟には仏伝図が連続的に表されており、絵因果経との関係をみるうえで重要な作例ということがわかった。このほか、第11窟主室内の涅槃図、第12窟前室の降魔図・初転法輪図・毒龍調伏図、西端諸洞における仏伝図などを調査した。 (2)山西省博物館にある涅槃変相碑を調査した。また、明代のものであるが山西省平遙にある双林寺には彩塑で造立された仏伝図があり、日本の法隆寺五重塔塔本塑像との関係が伺われた。 (3)山西省大同市には晩唐・遼・金時代にさかのぼる古寺が多数あり、寺観壁画も多数ある。今回は、善化寺・上華厳寺・下華厳寺の寺観壁画の一部を見たが、さまざまな事情で詳細な調査は行っていない。メトロポリタン美術館には山西省の広勝下寺の壁画・釈迦変相図が展示されており、予期せぬ収穫であった。これら古寺の諸堂の本尊は、平安時代の堂塔のあり方を伺わせるものとして重要であり、応県の八角五重の木塔は、院政期に白河上皇が建立した法勝寺八角九重塔を連想させた。
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