本研究は、日本を中心とした東アジアにおいて、釈尊がどのような思想的背景のもとで、どのような姿形(図像)で表されたのかを明らかにすることが目的である。最終年度となる平成19年度は、これまでの3年間に調査できなかったものの中から、最重要と思われるものを選び調査に出かけた。 まず、これまで重点的に調査を行ってきた敦煌地方の石窟の中で、未調査であった重要窟を実見できたことは大きな収穫であった。すなわち、敦煌莫高窟第76窟・第138窟、西千仏洞第18窟、粛北五箇廟石窟第1・3・4窟などである。さらに、懸案であった炳霊寺石窟のうち第16・126・128・132・169・172窟、龍門石窟のうち賓陽中洞・古陽洞、小南海石窟、響堂山石窟における壁画・浮彫を調査できた。また、石仏や造像碑、舎利容器などに表された仏伝図・涅槃図については、河南博物院、関林廟、商城博物館、甘粛省博物館などにおいて多数調査できた。 平成19年度は、最終年度ということもあり、中国国内にある作例の調査に全精力を費やしたので、日本国内の作例については最終的に不可能になり、次の機会を待つこととした。特に、新たに見いだされた広島・仏通寺の釈迦八相図は、1幅本として重要な作例であり、平成20年度以降調査実現を目指したい。その他、さまざまな事情で調査が実施できなかった作例は、広島・耕三寺、岡山・自性院安養院、岡山・本蓮寺、香川・常徳寺、岡山・宝福寺、大阪・高貴寺、大阪・福成寺などの涅槃変相図、奈良・東大寺、大阪・藤田美術館、山口・神上寺などの涅槃図、中国・山西省の巌山寺、、開化寺、興化寺などの寺院壁画、ボストン美術館、カンザス・シティ美術館、ロイヤル・オンタリオ美術館などに所蔵される石仏・造像碑などがあり、これらは今後の課題としたい。 この4年間は、日本・中国に於ける仏伝図・涅槃図や釈迦を含んださまざまな美術を重点的に調査し研究してきたが、現在編集中の報告書や論文等で成果を発表し、今後の研究に有効に利用できればよいと考えている。
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