本研究は、画家・藤田嗣治(1886-1968)の絵画技法に関する基礎的データを得るために、晩年のアトリエに残る資料の調査と整理、ならびに画材などの科学的分析を目指す。明治半ばの日本に生まれながら、80数年の生涯の半分以上を海外(おもにフランス)で暮らしたこの画家は、西洋の油彩画技法に日本固有の画材や技法を融合することで1920年代のパリでの大きな成功をつかんだが、その技法の詳細はいまだ不明な点が多い。藤田が晩年を過ごしたアトリエ兼住宅である「メゾン・アトリエ・フジタ」[パリ郊外のエッソンヌ県]には、生前の画家が使った画材や道具が残されている。申請者2名はすでに平成14年度にこのアトリエの所蔵品調査を(財)文化財保護振興財団より助成金を受け、フランスの修復家らと協力して実施したが、予算と時間の関係から総量の半分程度しか終えることが出来なかった。平成16年度にはあらたに科研費を得て、9月期に約1週間の現地調査を行い、未調査分の調査とそのリスト化「日本語・仏語・英語」と、入手した画材などの科学的分析を続けた。科学的分析を外部研究機関に委託した場合、結果が出るまでにかなり時間を要するため、研究期間を平成17年度までの二カ年計画としており、次年度には完成したリストと画材などの科学的分析結果、ならびに平成14年度の成果[リストと分析結果]を総合的に検討することで、今後の藤田作品の保存修復や美術史研究に基礎的な情報を提供することを目指している。また、成果をフランス語・英語にも翻訳することで、メゾン・アトリエ・フジタやフランスの修復家や研究者にも提供していく予定である。
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