研究の2年次に当たる今年度は、昨年度にひきつづき国学関係、和歌・和文関係の資料調査を続けるとともに、小説・煎茶に関連する資料、さらに伝記資料を調査・収集した。小説に関しては、刊本の他に、自筆本・転写本の形で伝わるものも調査し、煎茶に関しては、『清風瑣言』等の著述の他に、茶を題材にした和歌・和文等を調査した。また、伝記資料に関しては、主として書簡類について精査した。今年度の研究実績は、以下の通りである。 1.国学関係資料に関しては、『金砂』及び『金砂剰言』を精査し、秋成の独特な万葉集解釈を、先行する契沖や賀茂真淵等の万葉注釈類と比較して明らかにした。 2.和歌・和文関係資料については、特に短冊・懐紙類に書かれたものを網羅的に調査し、諸歌集に収められたものと比較して歌形の異同を明らかにし、あわせて筆跡の変遷から、それぞれの短冊・懐紙の染筆年代を推定した。 3.小説に関しては、特に『雨月物語』と説話の関係に比重をおき、「青頭巾」等における説話の影響を明らかにした。 4.煎茶については、まず版種の多い『清風瑣言』の版次を確定し、江戸時代における流布状況について考察した。また、煎茶論の歴史における『清風瑣言』の意義を、秋成が拠った中国の茶書や、同時代の売茶翁などの煎茶論などと比較して明らかにした。 5.伝記に関しては、秋成の書簡を網羅的に収集・検討し、それぞれの書簡の年次を考証して明らかにするとともに、今まで書簡の年次が未詳であったために年譜に記載できなかった事項を、相当数、年譜に書き加えることができた。また、最晩年の山口素絢あて書簡2通を新たに発見し、晩年の転居の理由を知ることができた。
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