研究の3年次で最終年度に当たる今年度は、主として上田秋成の俳諧・狂歌・画賛(絵巻)・随筆・書簡等の資料を調査・検討し、あわせて、「改訂版上田秋成著作目録」を作成した。今年度の実績は以下の通りである。 1.俳諧については、俳諧活動を年次順に整理し、秋成と当時の俳壇との関係を考察した。その結果、若い頃は都市風の俳諧グループと関係が深く、特に小野紹廉やその門人たちとはもっとも深い交流を結んでいること、また、中年期の、蕪村およびその門人たちとの交友が、画賛制作に手を染める大きな契機となっていることを明らかにした。 2.狂歌については、『万匂集』の諸本と内容を精査し、万葉語の使用状況等から、著者の国学的な知識が秋成のそれと重なる部分が多いこと、また、晩年の『海道狂歌合』につながるような、一種独特な狂歌観がうかがえること等を明らかにした。しかし、この作品の著者を秋成と断定するためには、なお検討すべき種々の問題が残っている。 3.画賛については、従来知られていない呉春、文鳳等との合作数点を新たに見出した。また、秋成の賛がある画賛の絵を担当した者が、交友の状況を反映して、主として蕪村系・応挙系の画家であることを明らかにした。 4.随筆については、晩年の一見国学的著述と見られる『神代がたり』が、晩年の秋成の意識に即す限り、国学研究書ではなく、歴史随想とでも呼ぶべきものであることを『胆大小心録』等との比較を通じて明らかにした。 5.書簡については、門人の紀行文中に書き留められた秋成書簡の写し等の新しい資料を加えることができ、また書簡をほぼ年次順に整理することができた。また、晩年に刊行された秋成の書簡集である『文反古』と、その草稿である自筆の『文反古稿』を比較し、版本化に当たっての推敲の具体的様相を明らかにした。
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