本研究の目的は、日本の古代文学を中国を中心とする漢字文化圏の一翼に位置づけ、その上で日本文学の独自の位相を解明するところにある。その目的を達成するため、本年度は、次のような研究・調査を実施して、一定の成果を得た。以下、箇条書きに記す。 1、外国人特別研究員として来日中の張龍妹氏と、平安時代の物語や説話と中国伝奇小説類との比較研究を共同研究として進め、とくに台湾大学、故宮博物院における漢文資料の調査を行って、有益な成果を得た。現在、資料の分析中で、この結果は最終年度に報告したい。 2、ハノイの漢喃研究所を訪問し、同所のGYUEN THI OANH氏と共同で、同所所蔵の漢字文献資料、『越甸幽霊集』『天南雲録』『皇越文選』『嶺南?怪列伝』等の資料を収集・調査した。とくに『嶺南?怪列伝』等は、従来、ほとんど未紹介でありながら、日本の説話文学などとも共通する要素が多く認められ、比較文学的視点からの貴重な成果が得られた。この結果についても最終年度に報告したい。 3、日韓文化交流基金の援助で来日中の林慶花氏と共同研究を行い、中国詩の理念が律令官人にいかに影響を及ぼしているかを、『万葉集』の防人歌・東歌の中に探るべく、具体的な検証を行った。 4、以上の成果の一端として、密告者にまつわる説話伝承を分析した論(『万葉の古代史」)、日本独自の嗅覚意識を分析した論(「古代人の感覚」)、『日本霊異記』の説話を分析した論(「弓削道鏡の艶笑譚」)を公刊した。
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