本研究の目的は、日本の古代文学を中国を中心とする漢字文化圏の一翼に位置づけ、その上で日本文学の独自の位相を解明するところにある。平成18年度は、本研究の最終年度にあたるが、次のような研究・調査を実施して一定の成果を得るとともに、成果報告書のとりまとめを行った。以下に、その内容を箇条書きに記す。 1、中国北京大学における「日本学研究国際シンポジウム」において、「『日本霊異記』に現れた死生観」と題する研究報告を行い、あわせて同大学の丁莉専任講師と共同討議を行った。また、日本学研究センターの張龍妹教授と、漢文伝奇に関する共同研究についての意見交換を行った。 2、トゥールーズ・ミレイユ大学(フランス)における日仏共同研究会議「死とその向こう側」において、「古代人の死生観」と題する研究発表を行い、『日本霊異記』の死生観と山上憶良のそれとの詳細な比較を行った。 3、前年度からの継続として『万葉集』巻16の注釈的研究を行い、それが平安時代の物語文学、とくに歌物語成立の端緒となりえていること、あわせて中国伝奇小説の影響を著しく蒙っている事実を具体的に指摘した。なお、この成果を、巻16の詳細な注釈として完成させ、成果報告書の主要部分とすべく、そのとりまとめを行った。 4、群馬県貫前神社(上州一ノ宮)の鹿占神事を調査し、東アジア全体の卜占とどのような関係にあるか、また『万葉集』東歌の「占へ」との関連について、知見を深めた。 5、以上の成果の一端として、『日本霊異記』の夢を論じた論(「古代の夢」)、『日本霊異記』の死生観について論じた論(「古代人の死生観」)などを公刊した。
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