本研究の主たる目的は、日本の古代文学を中国を中心とする漢字文化圏の一翼に位置づけ、その上で日本文学の独自の位相を解明するところにある。その目的を達成するため、研究期間内において、次のような研究・調査を実施して、一定の成果を得た。以下、箇条書きに記す。 1、本研究においてはアジア漢字文化圏の研究者と共同し、互いの意見交換によって、研究を推進することが必須である。張龍妹氏(中国北京日本学研究中心教授)、宋再新氏(中国四川大学教授)、林慶花氏(韓国成均館大学研究教授)、GYUEN THI OANH氏(ベトナム漢喃研究所教授)とともに、漢文資料とくに未紹介の伝奇小説を調査し、その収集を行って有益な成果を得た。とくにベトナムの漢文資料に、日本の説話文学と共通する点の多いことを確かめることができた。 2、『万葉集』巻16の注釈的研究を行い、それが次代の物語文学成立の端緒となっていることを具体的に実証し、あわせて中国伝奇小説の大きな影響を蒙っていることを明らかにした。 3、以上の研究成果の一端を、中国北京大学「日本学研究国際シンポジウム」、中国首都師範大学「国際学術会議」、トゥールーズ・ミレイユ大学「日仏共同研究討議」等の場で発表し、国際的なレベルでの一定の評価を得た。 4、このほか雑誌論文10編において、研究成果を公刊し、また本研究の成果にもとづく詳細な『万葉集』巻16の注釈を完成させ、これを研究成果報告書とした。なお、引き続きベトナムの漢文資料を翻刻し、公刊することを予定している。
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