本年度=平成16年度は、3年度にわたる課題「明治文学の<批評>概念成立におけるドイツ美学受容の意義」の初年度の研究として、別項【研究発表】に挙げたように、『文化的近代を問う』(文理閣2004年11月)掲載の「近代日本の評論における<批評>の成立-明治期<批評)の展開と大西祝『批評論』の意義-」をまとめた。本論文は、「はじめに-<評論>における<批評>とは何か」「第1節<西洋>における<批評>概念形成過程の概略」「第2節日本における<批評>意識と用語の登場、概念規定の模索」「第3節大西祝の<批評>論の展開」「第4節大西祝以後の明治期<批評>論の展開」の構成で、近代日本における学芸諸ジャンルが、当時移入された西洋(イギリス・フランス・ドイツ)の概念と制度に大きく影響を受けて編成されたように、文芸ジャンルとしての<批評>概念もまた、西洋の<批評>概念との邂逅によって形成されたことを追尋したもの。西洋における<批評>概念の形成過程や、近世までの日本における<批評>意識の成果などに触れた上で、明治期の<批評>概念成立のプロセスを概括し、その展開においてとくに大西祝の「批評論」が有する画期的な意義について分析した。 このように、明治文学の<批評>概念成立過程を考察するにあたり、当時受容されたイギリス、フランス、ドイツにおける<批評>論の展開の概略をたどることで、<批評>とはまさに、文学が自らのアイデンティティを問い、新たなる可能性を志向する際に構築される生成概念であることを確認できたことが、初年度の主たる成果であり、来年度以降は、この<批評>の自己言及性こそが日本文学における<近代>のメルクマールではないか、という見通しのもとに、ドイツ美学受容の意義についての考察という本来の課題に繋げてゆきたいと考えている。
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