平成18年度は、別項「研究発表」〔雑踏論文〕に挙げた論文(1)「森鴎外の<戦争>における<文学>の位相--<詩を要求する>心の軌跡と文学のカ--」(「歐外」80号平成19年1月)と論文(2)「<批評>と<革命>としての翻訳文学--石川淳『森歐外』における<精神の運動>の軌跡--」(「国文論叢」第37号掲載予定)を執筆。 論文(1)では、歐外の戦争論や戦争露識を追尋し、戦争との関わりで展開された歐外の文学活動の必然性を把握することによって、戦争に関わる作家の意職や心情において<詩>がいかに希求されたか、戦争あるいは反戦に向けての精神や行動に対して、文学(批評)はどのような位相を占め得るのかについて考察した。 論文(2)では、石川淳『森歐外』における歐外翻訳文学論の圧巻は、『諸国物語』以後、<小説とはなにかといふ考えに革命がおこった>と喝破している点にあることを、芥川龍之介の例を垣間見るととで確認。さらに、『諸国物語』収録の<「正體」の主人公が自家発明の機械に於けるがごときものかと、心寒く感じた>という記述を読み解くことで、石川淳がたどって見せた歐外の<精神の運動>の軌跡は、石川淳自身の<精神の運動>の軌跡となって、<批評>と<革命>としての翻訳文学の意義を披瀝し統けていることを論じた。 3年間の本研究の成果として挙げられるのは、近代日本におけるドイツ思想・文化受容とその表現形態や発展の軌跡そのものた、当時の国情や知識人の意識が反映していること、またドイツ思想・文化受容の成果そのものが<国民精神>の基盤を構築することによって、相互の響き合いによる国民文化の価値創造が実現したことを論じた点である。しかしながら、ドイツ美学自体についての研鑽が十分とは言えず、その課題を超克することによって、ドイツ美学受容が果たした明治文学における<批評>概念成立に関わる体系的な研究をめざしたい。
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