研究概要 |
本年度の成果は以下の通りである。 1,平成12年〜14年度科学研究費の交付を受けた研究課題「女訓書の研究」の成果である「女訓抄」(2003年・三弥井書店)を手掛かりとして、中世期における女訓書創造という営みがどのような思想的背景のもとになされたのかについて考察し、その内容を論文にまとめた。 具体的には、応永28年浄土宗鎮西派の聖聡が『往生要集』「大文第一厭離穢土」「大文第二欣求浄土」の解説を試みた「厭穢欣浄集」との比較を通して、「女訓抄」の作品世界の枠組みを明らかにした。さらに十章という章段数および説話を集成する性格の類似から「十訓抄」を、中世期の教育書という点から『世鏡抄』をそれぞれ取り上げ、『女訓抄』と比較することで、中流の家女に向けての教訓の内実が他の作品といかに関わるのか、前提となる男女観とともにそこに伺われる時代相を論じた。 2,『月庵醉醒記』輪読会において、同書所載のいわゆる「仮名教訓」の諸本調査およびその内容の検討を行い、女訓に留まらない室町末期の教訓と教養のありかたについて、その一端を発表した。 3,内藤記念くすり博物館にある大同薬室文庫にて、室町末期の諸資料を中心に、中世期の基礎教養のありかたを伺わせる資料および女訓に関する新資料の発掘を目指して調査継続中である。
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