本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)足利晴氏・:義氏に仕え、古河公方の重臣であった戦国武将、一色直朝(月庵)が記した雑話集「月庵酔醒記」の注釈作業に関する研究成果。 ・2007年刊行『中世の文学月庵酔醒記(上)』(三弥井書店)の担当箇所ついて、校訂本文の作成および、頭注・補注を執筆した。具体的には、『月庵酔醒記』上巻の佐藤嗣信に関する挿話と、節用集的内容である「須弥四州名」から「人歳之名」までの46項目である。その研究成果は、中世後期における<知>の全体像とその蓄積・継承といった教育的営為の解明に寄与するものである。 ・『月庵酔態記』中巻に収められ「男女のうはさ」と題された六項からなる一群を手掛かりとして、『月庵酔態記』にみる中世末期から近世初期にかけての過渡的性格と世俗性について論じた。具体的には、六項の最初に置かれた「二条殿の御文十箇条」中の妻に向けて夫に対する態度を説いた第四条に注目し、つづく二つの説話、仮称「たヽらのなにがし」の話と「家とうじふたりもたるおとこ」の話を「りんき」の観点から考察し、そこに説かれた室町末期の武家にとっての望ましきありかたを論じた。 (2)2009年度刊行予定『伝承文学全注釈叢書(第一期)女訓抄』(三弥井書店)の注釈作業に関する研究成果。 ・2006年11月より、『大東急記念文庫善本叢刊』所収の寛永16年古活字版を底本とし、穂国文庫本・寛永19年整版本・大阪女子大学写本との校合のもと校訂本文を作成。 ・「本文」「注釈」「補注」からなる全注釈形式にて、「序」「第一四倒八苦」の原稿を執筆し、現在「第二五障三従の事」の原稿を作成中である。
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