本研究は3年計画で行うものであり、近世中期における上方仮名読物出版年表の基礎稿を中心に、近世中期の上方仮名読物の中でも特色のある「奇談」について、その作者・版元・テキストについて調査探究していくことを目的としている。1年目の平成16年度は具体的な調査収集活動については、計画通りとはいかないまでも、比較的順調に進めているところであり、データ入力も享保期から宝暦期にかけての、大阪で出版された書目データについて、『大阪本屋仲間記録』を元に、必要事項をデータ入力し、その分析を進めているところである。その結果、特に大阪の吉文字屋市兵衛の出版活動と作品が今後問題になってくるという見通しを得た。吉文字屋の本については、実用書と娯楽読み物とのの関係も見過ごせないことがわかり、今後精査が必要となってくる。 平行して進めている「奇談」の文学史的位置づけについては、5月に「上方文藝研究」第1号に「上方の「奇談」書と寓言-「垣根草」第四話に即して-」という論文を発表、2005年2月に韓国日本学会国際学術大会(於高麗大学)で「日本近世小説史の新領域-「奇談」という書物たち-」という題目で発表した。いずれも「奇談」書という新たなジャンル認識で、文学史を再構築する試みであるが、篠原進「浮世草子の汽水域」(「浮世草子研究」創刊準備号、2004年)などに言及されるなど、反応が出始めている。 また10月にはコロンビア大学大学院博士課程のマイケル・スキャンロン氏を大阪大学に招いて、近世小説史の枠組みについての研究フォーラムを行い、活発な意見交換をした。マイケル氏は出版研究の立場から、近世中期の「奇談」書に興味を持っており、有意義なフォーラムであった。
|