本研究は3年計画で行うものであり、近世中期における上方仮名読物出版年表の基礎稿を中心に、近世中期の上方仮名読物の特徴について、その作者・版元・テキストについて調査研究していくことを目的としている。 作成中の近世中期上方仮名読物年表は、『大阪本屋仲間記録』を元に、必要事項をデータ入力し、その分析を進めている。昨年度宝暦期の途中まで入力したが、今年度は安永・天明のデータを入力した。これらの基礎作業からさまざまな問題が見えてくる。 平行して進めている「奇談」の文学史的位置づけについては、浮世草子の時代から、読本の時代へと移行する間の混沌とした状況を整理する新しいジャンルとしての位置づけを行った。その考察結果は、「浮世草子と読本のあいだ」(「国文学」第50巻6号、2005年6月、学燈社)に述べた。 また、「奇談」から「読本」が形成される際に、「寓言」という虚構論が重要で、とくに上方初期読本には、学説を生なたちで提示する<学説寓言>と呼ぶべき型が見られることを、「大江文坡と源氏物語秘伝」(「語文」第87・88輯、2006年2月、大阪大学国語国文学会)で考察した。なお本論は文坡自筆の新資料を提示し、同時に文坡が似雲から古今伝授を受けていた事実をも明らかにした。 また、近世中期の通俗善書と初期読本が関わりを持つのではないかということを、同一の版元から出版された『和字功過自知録』と『雨月物語』を例に考察し、「「菊花の約」の読解-<近世的な読み>の試み-」(大阪大学大学院文学研究科広域文化表現論共同研究「テクストの読解と継承」研究成果報告書、2006年3月刊行予定)と題して発表した。
|