宝暦四年刊『新増書籍目録』および明和九年刊『大増書籍目録』に「奇談」として登載される百余点の仮名読物の、文学史的な位置づけを、特に遊世上方の初期読本成立と関わらせて考えることで、従来の近世文学史の記述を考え直す視点を得るようとするのが本研究の目的であった。 基礎作業として、『大阪本屋仲間記録』に基づき、享保期から安永期にかけて、大坂で出版出願された書目を、必要なデータとともに入力した。これにより、この時期の出版傾向、書肆の動向などが窺えることになった。このデータの分析から、大坂の書肆吉文字屋市兵衛の出版活動に注目し、同書肆の刊行年表稿を作成、研究成果報告書に掲載した。また吉文字屋に焦点を当てて、浮世草子から読本への流れをスケッチした論文「浮世草子と読本のあいだ」(2005年)を執筆した。 「奇談」というカテゴリーを仮設して文学史を構築することは、従来型文学史に馴れている研究者には理解しがたいと思われることから、この点について「日本近世小説史の新領域-「奇談」という書物たち-」(2005年、高麗大学)・「テクストの生成と変容-近世における「奇談」の場合-」(2005年、大阪大学)という口頭発表を行った。 「奇談」の文学史的位置づけに関しては、「寓言」という虚構論が重要であることが明らかになってきたので、「「奇談」書と寓言」(2005年、広島大学)という発表において、その骨子を発表した。論文としては「「奇談」書と寓言-『垣根草』第四話に即して-」(2004年)、「大江文坡と源氏物語秘伝-<学説寓言>としての『怪談とのゐ袋』冒頭話-」(2006年)、「怪異と寓言-浮世草子・談義本・初期読本」(2007年)がある。これらを通して「奇談」書が寓言という方法を駆使し、知識・学説を登場人物に語らせるという趣向を持つという特徴を明らかにし、それが従来のジャンルを超えて見られる近世中期に流行した方法であることを明らかにした。
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