本年度は、偽書の近世的展開の実態を追求するため、本居宣長が『源氏物語』の欠落部を独自に補って補作した「手枕」を中心に、国学者による偽書制作の実態を考察し、それがたとえば鎌倉以降の源氏物語の補作作品である『山路の露』や『雲隠六帖』(いずれも研究代表者千本が責任編集の『日本古典偽書叢刊』第二巻に校訂本文および注釈を所収)、また連歌師の制作関与が想定される『紫日記』などに比して、いかなる特徴を持つかを考察した。 東アジア世界の中での位置づけとしては、昨年度北京において中国人研究者から中国偽書の実情を聴取したことに続いて、6月末〜7月初めにマレーシア、ジョホールの南方学院に、中国偽書研究の第一人者である鄭良樹教授を訪ね、実情について伺った。教授は熱心な対応を示され、幸い学術振興会の短期招請プログラムに採用されたので、2006年度一ヶ月教授に来日を乞い、日中の偽書の質的相違について突っ込んだ討議を期待している。 また3月ソウルを訪問し、日本と同様の中国周辺国における偽書の様相について下調査を行った。
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