本研究は、江戸期以前に開催された歌会及び詩会における和歌披講・詩会披講のありようを、歌会・詩会の記録及び和歌披講譜・詩披講譜の比較検討を通して、総合的かつ体系的に整理することを目的とするものであった。 現在「歌会始」及び「冷泉家披講」の形で伝えられている和歌の披講は、平安中期には既にその形が定まっていたと考えられるが、その作法や実際の声調に関しては、必ずしも明らかになっていない面が多い。これは、和歌披講・詩会披講に関する基礎的データが、充分に整理されていないことが原因である。このような観点から、本研究は歌会及び詩会の場における披講のありようを、特に、「披講譜」の編年的かつ網羅的な整理を通じて、それを具体的に探った。 和歌の披講に関しては、研究代表者の企画により、宮中歌会始披講会(坊城俊周会長)ならびに日本文化財団の協力を得て、和歌披講のCDを付した『和歌を歌う-歌会始と和歌披講-』(笠間書院、平成十七年八月)の刊行を見た。これは、和歌披講の現状を知る上での基本資料となるものと言える。また、宮内庁書陵部所蔵の明治期歌会始一括史料(F1-2、七十九冊)の調査を行ったほか、研究代表者架蔵の『大永二年(一五二二)綾小路資能筆和歌披講譜』について、上野雅楽会(野田知宏代表)協力を得て、これを音源CDとして再現し、研究成果報告書に付した。これは、室町時代の披講のありようを知る上で重要な試みである。また、本披講譜の占める位置を考察すべく、自余の和歌披講譜の分類と体系的整理を行った。この成果は、データベースとしてWeb公開の予定である。 詩披講譜については、(社)霞会館に昭和初期の北野天満宮及び平安神宮での詩会の詩懐紙が所蔵されていることが確認され、研究成果報告書に影印によりその全文を紹介した。
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