本研究では、大正期の15年間に限定した上で、各個人作家の全集に収録された作品別の書誌データ、当時刊行されていた新聞雑誌の目次情報をデータベース入力し、作家・作品・新聞・雑誌のタイトルごとの検索、年・月べつの検索を実現しようとした。初年度は、宇野浩二、芥川龍之介、葛西善蔵、宮本百合子、広津和郎、志賀直哉、正宗白鳥、谷崎潤一郎、田山花袋、島崎藤村、武者小路実篤、平林たい子、野上弥生子、有島武郎の書誌データを入力完了した。こうした縦横に検索可能なデータベース構築を行ったことで、同時代の言説空間をハイパーテクスト的にとらえる新たな研究方法が少しずつ見えてきた。これまで個別作家研究や作品分析、雑誌研究などでは個人的な「勘」を頼りにしていたが、対象にとらわれない横断的な視野を提供し、言説空間に対する統合的な研究が可能になりつつある。たとえば、『新潮』が江馬修や島田清次郎などの新人ベストセラー作家を生み出したのに対抗して、『中央公論』がやはり意図的に新人作家を輩出しようとして、佐藤春夫や宇野浩二、大泉黒石らが登用されていることが横に目をのばせば見えてくる。また『改造』の登場によって、総合雑誌のあいだで著名な文学者のとりこみがはかられていることも次第に分ってきた。こうしたジャーナリズムを舞台にした文学的な競争が著作家別データベースからもうかがえるようになったのである。
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