日本の近代文学の研究において、もっとも遅れているもの、それは個別の書誌データを横断的に統合し、検索や集計を行うデータベースの不在であり、それを駆使した統合的な研究の欠如である。本研究では、大正期の15年間に限定した上で、各個人作家の全集に収録された作品別の書誌データ、当時刊行されていた新聞雑誌の目次情報をデータベース入力し、作家確品・新聞・雑誌のタイトルごとの検索、年・月べつの検索を実現した。これによって文学年馨のかたちでしか見ることの出来なかった各作家の小説群の横の関係が見えてきた。まだ有名作家に限られているとはいえ、作品の質を問わず、著作データを網羅的にとらえることによって、年月を追うに従って、量的な飛躍が起きてくることが浮かび上がってきた。つまり、作家たちの増加、個々この小説生産力の増大が目に見えるようになってきたのである。これは出版市場とも連携しながら、その助走段階において雑誌創作欄が拡充されていき、小説の需要が高まっていく時期と推測することができる。単行本収録データを参照することによって、雑誌から単行本へのステップ、出版社と個々の作家の関係もデータベースから見えてくるようになった。データベースでは、出版社での検索も可能にしたので、出版社ごとにどのような作家の単行本が集中的に刊行されているかを見ることも出来る。こうしたことによって、大正期の近代日本文学の物質的な環境がどのように用意されたかがうかがえるようになった。
|