本研究は、韓国内に蔵書される朝鮮教育資料を根幹資料とするため、当該研究期間を通じて韓国国立中央図書館と釜山広域市立市民図書館内に蔵される朝鮮総督府発行の教科書・教授書・言語政策書・朝鮮政策書等といったさまざまな分野の一次資料調査及び大量の複写を行った。これらは国内における、朝鮮教育資料集としては随一の『日本植民地教育政策史料集成(朝鮮篇〉』(渡辺学・阿部洋編、龍渓書舎)の所収資料を大きく上回るもので、朝鮮教育研究領域において、当該研究における本収集の意義はきわめて大きいものだといえる。そのため、これら調査・複写内容については「研究成果報告書」(全146頁)に報告するとともに、長沢の運営する研究成果報告ウェブサイト「近代日本と韓国・朝鮮半島」(http://swjc.saga-wjc.ac.jp/~nagasawa/)においてもデータ・ベース化した上に公開している。また、統監府期・併合後期・独立運動後期の朝鮮教育行政の相違について俯瞰し(「韓国学部の普通学校制度と「義務教育精神の廃止」について」)、併合後の朝鮮総督府学務課長弓削幸太郎と、独立運動後の学務課長大野謙一の同化思想概念の相違について明らかにした(「日韓併合下における朝鮮教育の同化思想について-学務官僚弓削幸太郎と大野謙一の場合-」)。これらは、朝鮮総督府の教科書編纂事業について、併合前後及び独立運動後の編纂思想のあり方を知る上での基礎的なデータとなるものと考える。今後は教科書執筆者の教科書編纂についての詳細な思想について考察していく。
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