文学を社会学的な観点からアプローチする際の理論的枠組みを作るために、まず、Pierre Bourdieuの「経済資本」「社会資本」「文化資本」の概念を検証し、さらに、Richard Ohmannの言う"Professional-Managerial Class"の階級概念や、John Guilloryによる「文化資本」とキャノンとの関係に関する考察を踏まえ、「文化資本」という概念をキャノン形成の社会的力学の骨格とすることの有効性を確認した。この理論的枠組みについては、第14回言語人文学会で発表し、『東北アメリカ文学研究』29号で論考をまとめた。また、東欧系ユダヤ人が、第一次大戦と第2次大戦の間に、高等教育をスプリング・ボードとして社会進出していく過程を歴史的に検証して論文にまとめた。同時に、前年に引き続き、第2次大戦後にユダヤ系知識人がアカデミズム(特に文学研究と文学批評)の中で勢力を経ていく過程についても考察するとともに、ユダヤ系批評家と新批評家との間に見られる美的規範の類似性について知見を得た。 その一方で、70年代以降の文化戦争の一環を占めていた一般教育課程のカリキュラム改革と、そこに見られるキャノン改革の実態について調べるために、カリフォルニア大学のロサンゼルス校とリバーサイド校を訪れ、聞き取り調査と資料収集を行なった。また、ユダヤ系知識人が、多文化主義に基づくキャノン改革に対して示した反応について、Partisan Reviewなどを手がかりにして考察し、ユダヤ系知識人に見られる「普遍主義」(universalism)的価値観が持つ意義と限界についてアプローチした。こうした考察を含め、2年間の研究を通して得た結果については、研究成果報告書で発表する。
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