研究課題「20世紀前半の大西洋間文化交流とアフリカン・アメリカンに関する文化史的考察」において、研究作業の一部には、この時代のアメリカとフランスをつなぐ文化一般、およびアフリカン・アメリカンの代表的存在ジョセフィーン・ベイカーに関する文献を揃えることがあったが、十分とは言わないまでも、かなり満足のいく程度にまで、文献を揃えることができた。その結果、ジョセフィーン・ベイカーの存在理由が、ますます強く認識されるようになり、研究期間内において、単行本として出版することは実現しなかったが、かなりたくさんの研究論文を書き上げることができた。今日、アメリカ合衆国における「人種分離(レイシャル・ディヴァイド)」は、法律上の平等化にも関わらず、ますます明白になってきているが、そのような状況にある、「アメリカ」を深く理解するためにも、ジョセフィーン・ベイカーの存在は大きく、エンタテイナーとして文化交流に尽くしたのみならず、レジスタンスの活動家として、人種平等の世界構築および世界平和を希求した姿勢・その活動は、今、十分に評価することが緊急の課題である。研究の具体的目的は、ジョセフィーン・ベイカー論を書くことであるが、もとより、その文化的・社会的背景を抜きにして論じることはできない。報告書においては、フランスで生涯を終えることになった、ジョセフィーン・ベイカーのアメリカ時代、その人種差別の背景を、1917年に生まれ故郷のイースト・セントルイスで発生した人種暴動を、その象徴的な出来事として捉え、伝記の一部を加えている。これから本格的に執筆するジョセフイーン・ベイカー論の端緒である。科学研究費補助金により、この2年間、当時のアメリカにおける文化状況、およびアメリカの奴隷制度に関わる文学作品の分析・読解・研究発表・論文作成を精力的に行うことができた。また、上記の研究を通して、さらに研究テーマが広がってきたことも、この科学研究費補助金を受けたおかげである。
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