研究概要 |
本研究課題の研究成果として得られた知見は,1.ポリツィアーノの人文主義者・文献学者としての研究対象の多様性である。その対象は,初期のギリシア・ローマ詩人から,ローマの歴史家,プラトンやストア派などの哲学者を経て,後期のアリストテレス哲学にまでわたった。2.ポリツィアーノの人文主義者・文献学者としての自己認識である。フィレンツェ大学における後期の講義はアリストテレス文書を対象としたが,倫理学書,また殊に論理学書(「オルガノン」)を論じる際のポリツィアーノの態度は,一貫して「平明さ」・「明快さ」を重んじるルネサンス期人文主義のそれであり,ギリシア語原典の重視は文献学の原則に忠実なものである。3.最後期の開講弁論PanepistemonおよびDialecticaには,学知全体を鳥瞰し総合しようとする百科全書的・「方法」的意識の萌芽が見られる。4.最後に,本研究課題の全体的な意義・重要性は,15世紀後半イタリア人文主義の代表的学者ポリツィアーノの人文主義・文献学的著作をラテン語原文によって概観し,統一的理解を試みたことにある。その際の手順として,研究代表者は1498年ヴェネツィア版『全集』(アルド・マヌツィオにより出版された初刊本)を底本とし,他の版(1553年バーゼル版,1512年パリ版,1528,1533,1546年リヨン版の『全集』および1492年フィレンツェ初版の『ラミア』等)と校合しつつ,11篇の人文主義的著作の校訂版を編集した。これは,ポリツィアーノの著作の批評校訂版がいまだほとんど出版されていないために,必要不可欠な基礎的作業なのである。今後は,こうした校訂作業を『雑録』(Miscellanea)第1集へも拡げつつ,ポリツィアーノの人文主義・文献学的著作の包括的な解釈を行なっていきたいと考えている。
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