平成18年度の成果は二点である。 第一点は、平成17年度の成果である、アイヒェンドルフ文学における女性像の意味を解明した論文「ドイツロマン派における神話的形象-アイヒェンドルフ文学に現れる女性像」を公刊したことである。(『ドイツ・ロマン派研究』お茶の水書房2007年、1月、305〜330頁) 第二点は、アイヒェンドルフ文学の二重世界構造に関する論文を科研費報告書「アイヒェンドルフの文化史的研究」にまとめたことである。 この論文は、一般にアイヒェンドルフ文学の象徴性といわれるものの構造をアイヒェンドルフ文学の表現方法に基づいて探求したものである。それはアイヒェンドルフ文学の二重構造(此岸と彼岸)を彼の第二長編小説『詩人とその仲間たち』(1834年)の登場人物オットーに則し、そこに現れるals ob文、wie文、「夢」に導かれる文の意味、そして「現実」と「もうひとつの世界」が直説法で表現され、ついには両者の区別がつかなくなる現象の意味を明らかにすると同時に、アイヒェンドルフの宗教性と一般に言われるものが限りなく神秘主義に近づき、さらにアイヒェンドルフ文学の「自然」とは、実は、この神秘主義体験の表現ではないかと推測したものである。その上で、この論文は、アイヒェンドルフの「近代」との対峙が、彼自身、自らの拠り所と考えていたキリスト教信仰を越えて西洋知の基盤そのものに対する批判に及んでいるのではないかを示唆した。 この論文をもって、本研究課題は終了する。当初予定していた課題は、時間的前後はあったが、すべて終えることができた。平成19年度には出版助成を受け、今までの成果を江湖に問う予定である。
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