平成16年度から18年度まで以下の3点の解明を中心に研究を進め、当初通りの成果を収めることができた。 1 アイヒェンドルフの政治思想の再考 2 アイヒェンドルフ文学における神話的女性像の意味の解明 3 アイヒェンドルフ文学の二重世界構造(彼岸と此岸)の分析 アイヒェンドルフの政治思想はその「保守性」の故にアイヒェンドルフ文学研究では忌避される傾向が長らく続いてきた。本研究では、アイヒェンドルフの政治思想を、彼が生きた19世紀前半の政治状況に置き直し、それが保守的であることを認めた上で、たとえばA.ミュラーのような他の保守主義者の思想とどう違うのかを明らかにし、彼の政治思想が彼の文学と密接に関係することを解明した。 アイヒェンドルフ文学にはとりわけ女性像として神話的形象が現れるが、その意味するところはずいぶんと違う。本研究では、男の願望を具現した、多分にエグゾティックな描かれ方をする「航海」の「女王」像を一方に配置し、他方で水の精に現れる「溶融」への「誘惑」がソクラテス以来の西洋合理主義思考を揺るがす力を持っていることを分析した。 最後に、一般にアイヒェンドルフ文学の「象徴性」といわれるものの構造をアイヒェンドルフ文学の表現方法に基づき分析し、「二重世界構造」とでもいうべきものがアイヒェンドルフ文学の表現のあらゆるレベルに現れることを指摘した。 当初通り本研究を終えることができた。今後は、この成果を江湖に問う予定である。
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