研究概要 |
本研究は、ブリジットの列聖審議を通して諸霊の識別の問題と『マージェリー・ケンプの書』の成立過程を調査・研究するものであるが、本年度は聖ブリジットが活動していた1350年頃からマージェリーが最初の口述筆記を行なった1430年頃のヨーロッパにおける宗教界の動向や諸問題をあぶり出し、同書の成立の背景と過程を検討した。特に、マージェリーがエルサレム巡礼の往路、ブリジットの列聖審議や異端問題、さらに最も深刻な教会分裂を議論するための公会議の開催で緊迫するコンスタンスに滞在したことに着目し、コンスタンス公会議でブリジットの諸霊の識別の問題や女性神秘家の啓示を、キリスト教会の高位聖職者たちがどのように認識したかについて研究した。また、バーゼル公会議では、コンスタンス公会議で再確認されたブリジットの列聖が再審議され、列聖に異議を唱える側からは、ブリジットは「新たな異端」と見なされ、『啓示』は危うく焚書にされるところだった。バーゼル公会議でブリジットの『啓示』の正統性を擁護したHeimericus de Campoの論文を、Anna Fredriksson Adman, Heymericus de Campo : Dyalogus Super Reuelacionibus Beate Birgitte [English & Latin] A Critical Edition with an Introduction (Uppsala University Press,2002)などを用いて研究した。また、平成17年夏、Cambridge University Library, The British Library等で調査・研究を行なった。 エルサレム巡礼を中心とした研究の成果は、‘The Jerusalem Pilgrimage : The Centre of the Structure of The Book of Margery Kempe',English Studies : A Journal of English Language and Literature,86(2005),193-205に掲載されている。
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