本研究課題に取り組んで2年目(最終年度)にあたる平成17年度は、『あずまや』Die Gartenlaube 1853-1944(19世紀ドイツの市民層向け家庭雑誌マイクロフィッシュ版)を引き続き分析するとともに、第一波女性運動の特質を第二波女性運動と比較検討し、その家庭雑誌への影響を考察した。 『あずまや』は、19世紀半ばから20世紀半ばまで、編集者や出版社の交代があったものの、およそ100年にわたって存続しえた稀有な雑誌である。創刊者であるエルンスト・カイルErnst Keilは、検閲の厳しい反動的な時代にその自由思想をカモフラージュするために、家庭雑誌の体裁で雑誌を発刊した。しかし、自らの力で統一国家を建てる夢に敗れた市民は、政治から身をひき、逃げ場所として日々の仕事や家庭の中に「牧歌的な安心」を求めるようになり、やがて『あずまや』もそのような読者の要求に答えるようになっていった。 この家庭雑誌の先駆者としては、18世紀に成立した「道徳雑誌」がある。そのコンセプトは、「娯楽」と「教化」であり、大衆に楽しみを与えると同時に、教育しようとの意図も含まれていた。家庭雑誌もその特徴を踏襲していたが、新しい点は、家族で読まれることを想定していたことである。 第一波女性運動は、歴史上初めて女性たちが女性の権利、とりわけ「選挙権」を求めて立ち上がったものであるが、『あずまや』はその主な読者層が中流の市民女性であったにもかかわらず、この女性運動に対して、批判する、あるいは例外的な出来事として距離を置くという姿勢を貫いた。
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