19世紀後半のドイツにおいて市民層を対象としてもっとも人気を博し、かつその思考様式にまで影響を及ぼした家庭雑誌『あずまや』(Die Gartenlaube 1853-1944)をマイクロ・フィッシュで入手し、ジェンダー論の視点から分析した。その際、同時期に起こっていた第一波の女性運動に着目し、この運動が告発した女性の抑圧された立場と雑誌の内容を比較検討することにより、雑誌に表れるこの時代の市民層特有の「女らしさ」と「男らしさ」の意識を明確にしようと取り組んだ。 まず、このような女性読者を対象とする家庭雑誌成立の歴史的経緯について、市民層の台頭し始めた18世紀以降の「女性」と「雑誌の編集・発行」の関わりを調査した。 女性運動については「女子教育」と「女性の就業」をキーワードに、高等教育および職業訓練を通じて女性の権利を拡張しようとする女性協会、および運動家たちの活動を考察した。 そして、『あずまや』の分析では、主に連載小説、詩および挿絵に注目し、そこから読み取れるジェンダー意識を検討することに着手した。そこには一方で起こっている女性運動とはほとんど無関係に、常に女性を良き「妻」および「母」としての役割に閉じ込める市民イデオロギーが明確に、繰り返し認められた。 今後は戦時下、すなわち第一次世界大戦中、および1933年のナチスの政権掌握以降の『あずまや』の調査に重点を移し、ジェンダー論の観点から分析を継続したい。
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