オックスフォード運動が開始される直接の経緯は、イギリス議会がアイルランドにおける国教会であるアイルランド教会(the Church of Ireland)の主教区(see)を廃止したことに端を発する。問題の本質は、教会の霊的権威が国家の介入によって犯されたことである。運動の核心には「教会には国家や国教制度から独立した神から与えられた権威がある」という基本理念が存在していた。このエラストゥス主義に対する抗議を支える教会権威の出所として提示されるのは、キリスト自身であり、キリストの権能は正当な叙階による「使徒継承」("Apostolic succession")によって教会に渡されているとキーブル、ニューマンをはじめとする運動の推進者たちは主張した。 しかし文化的・思想的な背景としては、ロマン主義、およびそれと関係する中世主義が考えられ、この二つの思想傾向を代表する小説家・詩人のウォルター・スコットの作品と、18世紀半ばのメソディズムにも見られた福音主義的宗教熱情に匹敵する信仰心の発露によって支えられた運動であった。 この運動は文学の面でも、大きな影響を与えた。まず、キーブルの『キリスト教暦年』という詩集に端を発し、ニューマンを中心とする『リラ・アポストリカ』、自身の改宗体験に基づく『損と得』、17世紀のアングロ・カトリシズムの再評価に連なるショートハウスの『ジョン・イングルサント』、そして特異な宗教詩を生み出したイエズス会詩の詩人ホプキンズに影響を与え、全体として世俗化されるイギリス文化に無視できない足跡を残したと言える。
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