本研究の2年目に当たる本年度は、昨年度からの基礎的作業の継続として、ゾラの美術批評の精読と、その中で言及されている画家、作品、出来事等に関する調査、および、ゾラの小説作品と書簡の再読・分析の作業をおこなった。また美術社会史や歴史学、ジェンダー論等に関する文献を調査収集し、研究に利用した。 本年度の研究成果は次の通りである。 1.ゾラと画家たちの目指した「新しい芸術」と「共和主義」の関係、および「都市風景画」についてーー1878年6月30日、第3共和制下のフランスで制定された初めての国民の祝日にあたって、マネとモネは、三色旗で飾り立てられたパリの街路を、それぞれ2枚ずつ描いている。マネの2つの「旗で飾られたモニエ通り」及びモネの「モントルグイユ通り」と「サン=ドニ通り」である。われわれは、二人の画家の作品がいずれもゾラの小説『パリの胃袋』と関連をもっていることを指摘した(マネの場合は、小説の主人公である共和派青年フロランの部屋の「革命的装飾」との類似において、またモネの場合は、中央市場近辺という場所の共通性によって)。そしてこれら絵画と小説の分析、および1878年当時の政治状況の検討を通じて、ゾラとマネ、モネそれぞれの政治的立場と芸術との関わりについて考察した。また近代都市パリを描く都市風景画という観点において、マネとモネはいずれも、ゾラから示唆を受けていることを明らかにした。 2.都市風景の中の「裸体画」についてーー絵画ジャンルとして『パリの胃袋』が都市風景画と静物画、『愛の一ページ』が都市風景画と風俗画を扱っているとすれば、『作品』は都市風景画と裸体画を結びつける試みであると考えることができる。『作品』について、「風景の中の裸婦」の観点からマネ、セザンヌとの関係を考察した。
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