都市改良と警察に関する文献・資料の収集と分析に当たって、19世紀的「予防警察」構築に向けた理論展開をたどった。主たる分析対象は、パトリック・カフーンの著書A Treatise on the Police of the Metropolis(1806)とエドウィン・チャドウィックの論文"Preventive Police"(1829)である。ミシェル・フーコーのいわゆる規律・訓練的社会の成長を、公開処刑が新警察制度に移行する時代相の中にとらえることができた。特に18世紀、19世紀前半になされた死刑をめぐる諸家の発言の分析は、制度と人間心理の関わりを確認させた。ミシェル・フーコーの所論を援用すれば、警察は群衆のなかに潜行して権力を行使する。近代の社会形態の分析における群衆論は必須であったが、フロイトの諸論文などから群衆形成に関する理論を抽出して理解を深めた。 都市改良については、主としてロンドンにおけるリージェント・ストリートの建設事業の実際を検証し、その理論的分析を行った。この事業が行う空間的操作には前近代性が指摘されるが、このような評価はこれ以降の都市計画がもつ性格を理解する基礎を与えると考える。30年代の文学作品では、教育に言及する点においてブルワー=リットンのPaul Clifford(1830)の重要性が確認できた。他にチャールズ・ディケンズのSketches by Boz(1833-36)から"A Visit to Newgate"をはじめとする短編数編の読解に当たり、それらを一連の物と見なしたときに、スケッチ的描写がリアリズムに移行し、物語が萌芽することを確認し、その様態を検証した。
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