今年度は、行政の都市空間における力学を思想的に考察することと、都市空間の実地研究をおこなった。併行して、事実関係を確認し、19世紀イギリスの言説を把握するために内外の研究書と諸種の報告書、並びに新聞雑誌の記事を分析した。思想的考察と実地研究を支えるためである。 思想的考察としては、ミシェル・フーコーとジークムント・フロイトの論考を精読したが、前者は主に『臨床医学の誕生』、『知への意志』を読解し、それと併行してなされた彼のさまざまな発言も分析した。後者は「快感原則の悲願」以降になされた論考を精読・分析した。フーコーの場合は、医学における認識論的転換を都市空間の認識との関連で理解しようというものであり、フロイトは、集団形成のメカニズムと個人の問題に関する理解を深めるために読解して、第一次世界大戦以前の彼の思想との比較の上で分析した。歴史資料としては、19世紀イギリスの雑誌、エドウィン・チャドウィックの諸論文を現地調査と思想的分析を背後から支える言説的史料として位置づけ、分析を行った。 ロンドンに赴き現地調査をおこなった。各地区の図書館で、19世紀ロンドンの時代毎の区分図を収集するほか、現地を具体的に見て、時代的変化の跡をたどり、21世紀における現状を確認し、また記録のために写真撮影を行った。地図の解読では、街区の変更が確認でき、行政による都市改良の方針が、調査地区の空間構成に具体的に現れているのを確認できた。この実地調査に上記の思想的分析を援用するのが目下の作業である。結果的にフーコー並びにフロイトらの思想を批判的に読解することができ、ロンドン都市改良についての新たな視点を見いだす可能性が出てきたと思われる。 以上の考察はすでに草稿としてまとめてあり、平成18年度中に脱稿予定の著書の一部として組み入れる予定である。
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