ミシェル・フーコーの権力論を、主として『監獄の誕生』、『知への意志』を読解しながら分析し、19世紀イギリスの都市と文学の分析に援用を試みた。それが、フーコーの理論によっていかに解明できるか、その可能性と限界を探ることに主眼があった。文学を都市空間における事象と併置したとき、時代精神によっていかに説明可能かを探る試みでもあった。 歴史的事象の分析対象の重点は、ロンドンの衛生改革に移し、19世紀の貧困地区に関する文献資料を読解して、平成18年12月に現地調査を行った。資料は、従来ほとんど分析対象とならなかったか、重要性が見逃されてきたものを数点含み、分析に具体性とあらたな視点をあたえた。医療関係者による調査報告書はその一つである。実態を統計処理し、数値を都市改良の指標にするという手法が、時代の新しい認識方法、新しい知の形であることを、併行して分析した文献資料で確認することができた。 ロンドンの現地調査では、19世紀の地図、版画を参考に調査地区の現状を確認し、テクスト解明に援用した。この地図と版画は、その他の資料と共に、著書に挿絵として用いる予定である。文学テクストのうち、あるものがスラム、墓地、警察と医療といった、都市問題をめぐる言説の干渉を被っていることを確認した。ほかにも、都市の変貌を反映したものとして、19世紀における各時期を典型的に表象する作家の文学テクストを分析した。昨年度に引き続いて、ジークムント・フロイトの集団心理学と、フーコーの権力論は都市空間における人口の布置に関する分析の中心として、文学表象と関連させた。 本研究は単著の図書として出版予定で、平成19年中に脱稿、出版作業に入る予定である。
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