本研究は、フランスにおける初期活版印刷で出版された現存活字本の形態的変化を分析することで、出版書籍商の出版戦略を読み取り、当時の出版と読者の関係の一端を解明することにある。まず行ったことは本研究の対象とする活字本の選定である。以下の書籍商が1500年前後から1540年まで出版した活字本のうち特に民衆物語を中心に調査した。アントワーヌ・ヴェラール、ジャン・トレプレル、ドニ・ジャノ、ジャン・ジャノを中心とする印刷書籍商である。更にそれぞれ現存する版本の所在等の書誌情報を出版年代順に整理した。これらの版本のうち、写真版として現在刊行されている版本及び、研究対象となる版本のパラテクストについて詳細な情報を得ることができる文献を購入した。未刊本の版本については、その多くがパリの国立図書館に現存するため、平成17年3月1日から8日、及び10月30日から11月8日までパリの同図書館の貴重本室で対象となる刊本について特にパラテクスト(表紙、目次、インデックスの導入、挿画や装飾模様の変化、活字等)を詳細に検討した。その結果を出版年代順書誌情報及び調査結果をパーソナルコンピュータを使用してデータベース化した。そのデータベース化した版本の表紙、目次、インデックスの有無、挿絵、装飾模様、活字、テクストの配置等を出版書籍商ごとに分析し、それらの特徴と変化を考察した。その中で中世末期の西ヨーロッパで人気を博した「グリセルダ物語」に着目し、その考察結果の一部を12月3日に開催された2005年度日本フランス語フランス文学会中国・四国支部大会(岡山)で「出版書籍商アントワーヌ・ヴェラールの「グリセルダ物語」」と題して口頭発表し、また「「グリセルダ物語」再考-Anthoine Verardの出版戦略をめぐって-」(高岡幸一教授退職記念論文集刊行会編、『シュンポシオン 高岡幸一教授退職記念論文集』、朝日出版社、2006年所収)と題する論文にまとめた。
|