本研究の課題は、マイスター・エックハルトをその代表者とする「ドイツ思弁神秘思想」の歴史的・思想史的研究である。初年度は研究基盤を整備するために以下の調査と研究発表をおこなった。 1.ベルリン自由大学において主としてシュトラースブルクの都市史と教会史に関する資料を収集し、また同大学教授Volker Mertens氏と研究テーマに関する意見交換をおこなった。これにより、13/14世紀における政治・経済・宗教の一大拠点であったシュトラースブルクが深刻な異端問題に直面しており、エックハルトの説教・著作活動がこれに対抗する目的でおこなわれたことが資料によって裏づけられた。 2.日本独文学会秋季研究発表会において5名のメンバーで「ドイツにおける神秘思想の展開」というテーマでシンポジウムをおこない、「主は人間の中に、人間とともに住まうことを喜び給う-マイスター・エックハルトの思想形成と都市エルフルト」という表題で研究発表をおこなった。これにより、本研究課題である「ドイツ神秘思想における市民社会の意義」を明らかにした。このシンポジウムの成果は日本独文学会研究叢書として刊行予定である。 3.国際宗教学宗教史学会世界大会において4名のメンバーで「ドイツ神秘思想における相克と共存」というテーマでシンポジウムをおこない、"Mystik als Ort der Begegnung und Auseinandersetzung"(出会いと闘争の場としての神秘思想)という表題で研究発表をおこなった。ここで、中世後期の異端運動に対する神学者たちの学説を歴史的に紹介し、神秘思想が直面した思想史上の問題性を明らかにした。これは、本研究課題である「神秘思想の歴史的発展の解明」に相当する。 上記の成果によって、神秘思想の歴史的・思想史的研究の基盤はほぼ整えられ、初年度の目的は達成できた。
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