本研究の課題は、マイスター・エックハルトをその代表者とする「ドイツ思弁神秘思想」の歴史的・思想史的研究である。17年度は初年度で整備した研究基盤にのっとり、以下の調査と研究・発表を行った。 1.2005年8月に1週間、ベルリン国立図書館でケルンの都市史と教会史に関する資料を収集した。エックハルトは神学生として1280年頃に、またドミニコ会高等神学院院長として1323-1327年にこの地に滞在しており、今回は12/13世紀の同市の宗教事情を調査した。 2.中世宗教史研究の文献整備のため、以下の重要な書籍を購入した。叢書Miscellanea Mediaevalia(Thomas-Institut発行)全14巻、学術雑誌Freiburger Zeitschrift f□r Philosophie und Theologie全79巻。 3.エックハルトのエルフルト時代(1295年-1311年)の活動を歴史的に調査した論文、「主は人間の中で、人間とともに住まうことを喜び給う」-マイスター・エックハルトの思想形成と都市市民社会-を発表した。これにより、都市の発展史とドミニコ会の宗教活動が密接に連動していることが証明できた。 4.ヨーロッパの神秘思想の源流を明らかにする目的で、論文「ドイツ神秘思想の宗教学的基礎づけの試み」を発表した。これにより古代から中世に至る神秘思想の基本的特性を把握することができた。 5.マイスター・エックハルトの20世紀における受容史を明らかにする目的で、20.6年3月に日本独文学会文化ゼミナールにおいて"Nihilismus und Utopismus. Die Reichweite der antiken und mittelalterlichen Endzeitmythologie in das Denken des 20. Jahrhunderts"という表題で研究発表をし、M.ハイデッガーとE.ブロッホにおける終末論的宗教観について論じた。 6.女性神秘思想における宗教体験の特殊性を論じる目的で、2005年9月に東京大学とアレクサンダー・フォン・フンボルト財団主催のシンポジウムKulturfaktor Schmerzで"Schmerzempfindlichkeit und K□rperwahrnehmung im Mittelalter"という表題で研究成果を発表をした。 上記の実績によって、神秘思想の歴史的・思想史的研究の研究基盤は整い、研究は成果を公刊する段階に入り、2年次の目的はほぼ達成できた。
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