エリザベス朝に英国で出版された"Italian Books"約300冊のうち50冊について、翻訳書とイタリアのoriginalに直接あたり、bibliographical descriptionを試みた。戯曲本のbibliographical descriptionはGregなどの先人の偉業があるが、イタリアからの影響という視点にたった、戯曲以外のジャンルについての研究分析は他に例を見ず、学問的価値があると信ずる。翻訳書を11のジャンルに分類し、当時の知識人たちが、イタリアのどのような側面に食指を動かしたかを探っている。残りの書物についても同じような調査・分析を行い、preliminariesを中心に出版状況を明らかにする。 戯曲に関しては、今年度はShakespeareがMeasure for Measureの粉本として用いたことで知られているGeorge WhetstoneのPromos and Cassandraの分析を試みた。まず、British Library所蔵のイタリアのoriginal(Hecatommithi)にあたりその出版状況を考察した。本戯曲は前代未聞の爆発的な興隆を見たエリザベス朝演劇の雌伏期に書かれたものであり、現在ではあまり高い評価を得ていないが、エリザベス朝演劇の核ともなる特質と要素、すなわちその途方もない活力と、多様性、ロマンティックでありながら、同時にリアリスティックである、また極めて緩やかで柔軟な構造といった特性をすでに内包しており、すぐ後に続く作品のさきがけとして重要な役割を果たしていることを明らかにした。 第1節 CinthioのHecatommithiは当時大流行したnovelleの代表的作品である。イタリアにおけるこのジャンルの人気の原因を探り、Whetstoneがあえて散文のnovellaを韻文の戯曲に仕上げたことの意味を問う。
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