研究課題の「アメリカ・マイノリティ文学」は、アメリカ社会・歴史・文化における「マイノリティ」によって書かれた文学、および、いわゆる主流文化に属する作家によって書かれた人物および歴史描写におけるマイノリティ表象を指している。本研究における2年日は、アフリカ系文化研究において主導的立場にあるコーネル大学のHortense Spillersによる刺激的なエッセイの翻訳によって始まった。Spillersのエッセイは、アメリカの主流作家であるWilliam Faulknerが今では、アメリカの主流大学のひとつ、コーネル大学において、アフリカ系アメリカ文学作品とともに教えられていること、その理由は、フォークナー文学が北米に限らず、中南米およびカリブ地域の作家によって共有される「境界」を越えていく人間の意識を書き続けたからに他ならないことを雄弁に語っている。 夏には、ハーヴァード大学において、マイノリティ文学の資料調査を行った。また10月には、2004年フォークナー国際会議で発表された論文集の共編者として、全文英文によるHistory and Memory in Faulkner's Novelsを出版した。本著には、研究代表者による論文も含まれるが、その英文原稿を改訂し日本語に翻訳したヴァージョンも紀要に発表した。 また、オジブエ・インディアンの居留地Turtle Mountainの物語を書き続けているLouise Erdrichの歴史物語についても論文を発表したが、本論文は、英米文学界の伝統的雑誌『英語青年』における最初のErdrich論となった。 以上、主流文学の巨匠フォークナーとマイノリティ文化の接点を探る試み、および、いわゆる「マイノリティ」に属するアフリカ系人物、女性人物、アメリカ・インディアン作家について研究を続け、研究課題の「境界」表象について成果を得た。
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