次年度にあたる平成17年度は、初年度の成果を踏まえ、ポーの雑誌文学とナショナリズムとの関係を考察した。また、その結果をさらに19世紀中葉のアメリカのナショナリズム的言説と照らし合わせ、この時代のアメリカ社会・文化を考察する一助ともした。その結果、以下の三つの点を明らかにすることができた。 まず第一に、ポーの雑誌文学もまた、19世紀中葉のアメリカの「国民文学」創生という文学的ナショナリズムの表れの一つと考えられるが、同時代の北部文学が「アメリカ性」や「アメリカ的題材」にこだわったのに対し、ポーは題材とは無関係に様式の「多様性」と「質」の高さを問題にしていたことが明らかとなった。 第二に、ポー文学におけるパロディの多くが、北部文学に対する批判となっているが、そこには、単なる南部作家ポーの北部文壇への挑戦のみならず、アングロサクソン・プロテスタント・北部中心のロマンティックな歴史観に対するアンチテーゼも含まれていた。このことは、当時の「マニフェスト・デスティニー」に象徴される拡張主義や奴隷制に代表される人種差別を考えると、ポーの北部批判の意味が、予想以上に深いことを示すもので、ポー文学の再評価につながった。 第三に、ポーの文学的ナショナリズムと同時代の他の作家のナショナリズムを比較検討する過程で、このようなナショナリズムが、エマソンやメルヴィルといった同時代の男性作家のみならず、セジウィック、ストーといった女性作家にも共有されていることがより明確になった。その結果、ルネッサンス期アメリカ文学研究には、(文学的)ナショナリズムの視座が有効である可能性、またその総体を捉えるには、個別の作家研究のみでは限界があることなどが、今後の新しい課題として浮上した。
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