セネカはキケローという100年前の哲学者と突き合わせなければ、真に特色の全貌において捉えることはできない。セネカの極めて実存的・宗教的哲学はキケローの極めて政治的・社会倫理的哲学と対比させなければよく見詰めることはできない。しかもキケローはローマ元老院共和政の指導的政治家であり、一方セネカはローマ初期帝政(元首政)の代表的政治家であった。第5代元首ネロの家庭教師そしてやがて政治指南役としていわゆる専政・独裁政を常に見守り、寛容を元首に説いたのがセネカである。彼にはネロを意のままにあやつろうとする母アグリッピナという大問題が煮えたぎっていた。このところを敢えてキケローのカエサルという独裁者への関係、カエサル政治との闘いという観点から立体的に捉えたのが本年度の研究方向であった。数多くの欧米のキケロー、セネカ文献に目を通した。
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