研究概要 |
今年度はMichael Ondaatje, Shyam Selvadurai, Anita Rau Badami, Austin Clarkeを主な対象として、テクスト分析、批評の検討、歴史、社会、政治的背景の調査を行った。その結果、(ポスト)植民地体験の具体的な多様性を知るとともに、共通の傾向も確認できた。特に、教育の内容と地域の現実との間のずれがどのような形で露呈するか、英語とその文化がいかなる創造の源泉となり得るか、主体形成の場としての学校制度がどのような傷痕を残したかといった問題が、作家たちの重要な創作動機につながり、テクストの構築を導く法則をも提供しているようである。またカナダは、移民たちのポストコロニアリティの祝祭的な混交の場でも脱植民地主義の完成の場でもなく、一種の中立地点、過去の評価の場として機能している。この点は、カナダの教育制度が一貫した世界史の構築に力点を置いてこなかった事実とも関連づけて解釈すべきであろう。 2004年度の主な活動を列挙する。 1.6月 ロンドン大学SOAS開催の"Narratives of 'Home' in South Asian Literature"にて、植民地教育のジェンダー化と「故郷」の創造について報告。 2.8月 カナダ国立図書館、マギール大学にて資料収集と調査。ロバート・レッカー教授にインタビュー。教育の現状とキャノン形成の問題について聞いた。 3.9月 オースティン・クラーク論を日本カナダ学会年次大会にて発表。 4.10月 サイモン・フレーザー大学のロイ・ミキ教授にインタビュー。9.11以降のカナダにおける文化状況、批評的観点の変化について意見交換。 5.2005年1月 セルヴァデュレイとバダミを招聘。ディアスポラと90年代以降のカナダ文学をテーマに講演会を開催。出身国での教育、移民体験についてインタビュー。
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