研究概要 |
本年度は夏休み中の4週間をオクスフォードで過ごし、もっぱらボドリアン・ライブラリーに通って文献の収集・調査にあたった。その成果はかなりあったと思う。滞在期間中に開催された学会にも参加し有益な情報を得ることができた。これは、The Jacobean Printed Book : Authors, Printers and Readersと称する学会で、私が強い関心を寄せている最近の「本の歴史」研究の一環をなすものであった。時代的には多少早いが私の研究に役立つ多くの知見を収集することができた。さいわいこの種の「本の歴史」研究の学会は年ごとに盛んになりつつある。 さて、オックスフォードで収集した資料の主なものは、私の研究課題と密接な関係のあるニューカースル・アポン・タインに関する文献である。まず、この町の歴史、生活、経済、文化など総論的なことから始めて、本題の出版産業、流通、読者等に関する資料を集めることを心がけ、十分とはいえないながらかなりの成果を得た。ただ、残念なのは肝心の出版や流通を扱った資料がなかなか入手困難なことであった。しかしこれは今後現地に赴き、図書館・資料館などに当たればかなりの程度補うことができるものと期待している。 資料収集の過程で痛感したことはやはり北部の文化の拠点ニューカースル・アポン・タインの出版産業と流通の重要性である。この町は主としてバラッドやチャップブックを大量に刊行し、イングランドのみならずスコットランド各地に影響を与えた。その中心人物のひとりがこれら素朴な庶民の出版物に挿絵を添えたトマス・ビューイックであった。ビューイックの弟子はイギリス各地に広がり、ロンドンでは19世紀木版画隆盛の基礎をつくるのに重要な役割を果たした。こうしたことも含めて、今年度は18世紀出版産業と流通の概略を調査するの時間を使い、論文も数編発表した。来年度はこれらを発展させ、ニューカースルとその周辺の町の出版史上に占める位置を明らかにしたい。
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