本研究の目的は、いくつもの学術論争によって鍛えあげられて、『偽金鑑識官』から『二大体系についての対話』への移行の中で大きな変容をこうむったガリレオの「説得の技術」の発展の経過と特徴を、時代の文化的背景、特にバロックとの関連といった視点を中心に、解明していくことであり、当初の計画では、初年度は、ガリレオに関しては『浮体論議』を中心に検討する予定であったが、前年度まで行なった科学研究費補助金による研究「ガリレオ・ガリレイの言語戦略の研究-2つの対話作品を中心として-」をまとめる過程で意識されてきた『二大体系についての対話』「第4日」の重要性を検討することが優先されるべきだと判断した。「第4日」で扱われている「潮汐理論」が『二大体系についての対話』の中でガリレオが最も取り上げたかったテーマであり、プトレマイオスの立場とコペルニクスの立場のいずれからも説明されうる他の現象とは異なり、地球の回転の直接的証拠だと彼が考えていた自然現象であったので、この仮説の提示は、教会に対して、非常にデリケートな問題を孕んでいたため、彼の「説得の技術」がある意味試される場となっていたからである。現代から見れば誤っていたガリレオのこの「奇想」がどのように発想されたのか探るためには、古代から近代にいたる「潮汐理論」の発展を知る必要があり、初年度後半は国内外の図書館等での「潮汐理論」関係の資料収集に終始する結果となった。 バロックに関しては、初年度はトルクアート・アッチェットの『誠実な隠蔽について』を分析した。「誠実さ」と「隠蔽」という二語は互いに矛盾しあっているが、このような矛盾を生きざるを得ないのがバロック期という時代であり、表面的には「隠蔽」を用いつつも、内奥では「誠実さ」を失わずに生きていく、バロック期の宮廷人の倫理観がこの作品中には表明されているのである。
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