2005年4月から10月までは、2004年度に収集したタイ映画関係資料(現地語映画関連書籍、現地語映画雑誌バックナンバー、タイ人映画関係者からの聞き取り調査)の分析を進めると共に、DVD・VCDなどの記録媒体の形で収集した1960〜2000年代のタイ映画を時系列に沿って鑑賞し、監督作品、カテゴリー(娯楽、アクション、歴史、文芸作品、怪奇、SF・怪獣、アニメ等)別のデータベースを作成した。11月には大学祭の期間に学内の施設・設備を使って1980年代の典型的な映画の上映会を催し、1980年以前と以降の規範意識(王制と国家に関する意識、家族紐帯関係、恋愛意識、)と映画でのその表象のパターンと意味を視聴者と共に考察した。これらの成果は秋学期以降、本務先の東京外国語大学や出向先の大東文化大学のタイ文化論の講義において活用した。12月にはタイにおける現地調査を実施した。タイ国立フィルム・アーカイブではドーム・スッカウォン所長、チャリダー主任研究員以下のタイ映画関係者との間で、これまでの研究成果について意見交換を行うと共に、「チャトリーチャルーム・ユコン監督作品における社会問題の表象」というテーマで現地語による研究発表を行い、質疑などを通じて貴重な知見を得た。これらの成果はタイ国立フィルム・アーカイブ発行(年刊)の『タイ映画』に寄稿する予定である。12月の現地調査ではさらに、バンコク都サパンレック地区のメディア街において1960年代以前の古いタイ映画のDVD・VCDの収集を集中的に行い、伝説的な興行記録を樹立した映画「モン・ラック・ルーク・トゥン」(田舎慕情)を初めとするタイ映画全盛期の2種類のシリーズの過半数を収集することに成功した。その多くは研究者や特定のマニア以外には関心が持たれないゆえに現在は絶版で入手が困難なものであるが、本研究課題の遂行には必要不可欠のメディア資料であり、今後、この貴重な資料の分析を精力的に進めると共に、その成果を著書、論文の形で公表していきたい。
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